人工生命 と聞くと皆さんはどのようなものを想像するかしょうか。
私が小さい時に見たアニメで「デジモンアドベンチャー」というものがありました。それは、コンピューターの中のデータが自我を持ったモンスターとなり、互いに戦いときにはそのデータが進化してより強力なモンスターになるというものがありました。この他にもゲームやアプリの中で動植物や現実世界にいない生き物を育てる、または一緒に冒険するというものがあります。
これらのゲームは あたかも画面内の仮装生命体を育てているように錯覚させますが、実際にはあらかじめプログラミングされたコードに従って動いており、そのモンスターの行動パターンや成長した姿などは予め決まっております。
ある日世界中のコンピューターに人工知能を持ったウイルスが広まった。このウィルスがネットワーク上で姿や性質を変え生き物のように進化したのがデジタルモンスター(通称デジモン)だ。
しかし近年のコンピューターの性能の比較的な進化や人工知能に関する研究の盛り上がりのおかげで人工生命という分野の研究にも注目が集まっております。
私が人工生命と言う言葉を聞いたときは、上のような子供時代に夢を見たモンスターを実際に自分の手で作り出せる夢のような技術だと思いました。本記事ではその人工生命について紹介し、本当にデジタルモンスターをつくれるのか紹介していきたいと思います。
人工生命 とは、人工的に作り出された生命体
人工生命の研究の第一人者であるラングトンは人工生命についてこう述べています。
「人工生命は自然の生きたシステムに特有な振る舞いを示す人工的なシステムについての研究だ。これは生命と言うものを地球に生じた特別な電源提出可能な限りの表現を通して説明しようとするものだ。人工生命の”人工”とはまがい物という意味ではなく自然では無い人の手で作られたものである。そして人工生命は生物学的な現象をハードウェアやソフトウェアばかりか有機物によるウェットウェアなどの他のメディアを使って作り上げようとすることで研究するものだ。」
簡単なルールから、生態系のように複雑なシステムを創り出す
最もよく知られているのは人工生命を生み出すきっかけとなったライフゲームです。
以下にライフゲームのルールや特徴を簡単に説明した動画を紹介します。
60年代の終わりにイギリスのケンブリッジ大学の数学者が作ったこのライフと言う名のついたゲームは、いわゆる参加者が勝ち負けを競うゲームではなくシュミレーションゲームと言うジャンルに属するものです。
格子状の大きなますに任意のコマ置いておき後はいくつかのルールを設定することでそれが自動的に増えたり減ったりしながら作り出すパターンを見て楽しむゲームです。
並べられたコマは時間が経つにつれてバクテリアが増殖するように奇妙な形を見せながら成長していきます。このゲームはルールが簡単であるにもかかわらず毎回異なった結果を見せてくれ、製作者でも予想できない生態系を生み出してくれます。
そのルールとはあるマスの上下左右と斜め方向に隣り合う8つのスペースの中にセルが何個存在するかによってそのマスの状態が決まるものです。
ここで1つの作品を見てみましょう。下に示すのは「Breaking the Ice」と言うCGアニメーションです。
この動画の中では、この動画の中では美しい模様の魚や鳥が自由に泳いだり飛んだりしています。これだけの数の魚や鳥のスムーズな飛行 CG を作成するには膨大な手間がかかると思います。
驚くことにこのアニメは初めに魚と鶏のモデルが空間に配置されその後の動きには誰も手を貸しておらず、いわばこの群れの動きはコンピューターの中で勝手につくられたものなのです。
つまりこれらの群れにはある簡単な規則があらかじめインプットされておりその規則に従って一つ一つの答えが動くことであたかも自然の群れのように振る舞っています。
この様に個体ひとつひとつに2,3の単純なルールを設定するだけで、 個体の集合である群れの複雑な動きを表現することができます。
このように人工生命の分野では、簡単なルールから巨大で複雑なシステムを再現することができます。
生物のデザインは誰が決めた?
この人工生命を使って生物のデザインについても考察することができます。イギリスの動物行動学者ドーキンスが『利己的な遺伝子』と言う書籍の中で述べたバイオモルフを紹介します。
このプログラムでは画面上に黄色のような単純なパターンが表示されます画面上ではこのパターンが世代交代をするにつれて初めに決められたルールに従いパターンを変えていきます。画面上には突然変異によって生じた次の世代の子孫が複数示されます。作業者はその複数の子孫の中から自分の好みの子孫を選択しさらに次の世代へと進化させていきます。
研究者のドーキンスは植物のような簡単な形ができる程度と思っておりましたが世代交代を進めるうちに本人が想像もつかなかったような昆虫のような奇妙な形が次々に作りがされてきました。遺伝子の組み合わせは天文学的な数に登りますが、これをあたかも神のような目線で取捨選択し評価することで、生物の進化の過程を再現することができました。
ドーキンスの主張は、進化を継続的に続けていくことで、偶然の積み重ねが現在の生物の驚異的な複雑さと、多用な形態を創り出したと主張しています。
この偶然とは、突然変異のような異常個体の出現であり、作成者が行った子孫の選択とは、環境への適応能力と置き換えて考えることができます。
バイオモルフの系統図
バイオモルフのパターン
人工生命も目的に応じて適切な形と行動形式へ進化する
Karl simsが研究する人工生命体は、それを動かす身体と制御器を同時に進化させていく人工生命体です。 彼の研究する人工生命体は立方体の組み合わせのみで構成されるシンプルな体を持っています。 その人工生命体にある目的、 例えば歩くジャンプする泳ぐを与えた時に人工生命体の体とその体の動かし方逝去について学習し進化していきます。 目的を達成するために進化した姿は多種多様におよびまたその体の動かし方も千差万別です。
Karl Sims, “Evolving Virtual Creatures” “Evolving 3D Morphology and Behavior by Competition”
人間の赤ん坊もはじめは物を掴むことが上手にできず 触るだけだったり落としてしまったりします。 しかし失敗を繰り返していくことで徐々に物をつかめるようになって行き、最終的には箸などの道具を用いるなどの複雑な動きができるようになります。 このように人間が複雑な動作を獲得していくには、目的とその過程の失敗経験が必要になります。この失敗情報を獲得するのは視覚情報や指先の触覚が必要です。
人工生命の研究を通して感じたことは、やはり生命は環境との相互作用を通して徐々に環境に適した身体と行動方策を獲得するように進化して行ったということです。
そしてこの人工生命をアプリにした、ARTILIFEというアプリが配信されました!
残念ながらこちらのアプリは現在は配信されておりません。
「人工生命観察プロジェクト」と紹介されておりますが、ムービーを見るだけでもかなり面白そうです。主に観察型のアプリで、人工生命が強化学習により移動方法を学び、移動に適した形状に進化していくのを眺めます。
生物の進化の歴史を仮想シミュレーション
我々人間のように複雑で多様な機能をもつ生物と、アメーバやミジンコなどの極小で単純な生物との違いはなんでしょうか?地球上の生命は様々な形をとっているものの、本質的には同じ電解質と遺伝情報を持ち生化学的な性質はアミノ酸やタンパク質など全て同じものです。我々人間も一個一個の細胞が組み合わさって、それぞれの臓器が特定の働きをすることで 生命として活動し複雑な行動をとることができます。 つまり我々も小さく単純な細胞の相互作用で成り立っております。
生物学や動物行動学を研究すればするほど、小さな細胞やありの行動などの小さな要素の相互作用の集合からライフゲームのように生物的な振る舞いが生じてくることが明らかになっていきました。これは上から与えられた行動ではなく、局所的なルールを積み上げるボトムアップによって定義されていない上位の振る舞いが自発的に生じるのです。
かつて原子のスープから酸素系の原始的な性質が生じ何世代もかかってやっと人間が出現したと信じられていますが、もし最初の条件が違っていたら今の生命体は同じものになっていたのでしょうか。
最初の条件が少しでも異なることによって全然違う結果が生じるカオスのように今と全く違う性質が生じる可能性はなかったのだろうか。もしかしたら、地球外の違う惑星ではケイ素などの炭素系以外の基盤を持つ生物が進化しているかもしれません。
最後に
人工知能と人工生命を組み合わせることで、小さいころに夢みていたアニメやゲームのようなデジタルモンスターが誕生するかもしれません。人工知能にも興味がある人は以下をどうぞ。
それだけでなく、人工生命を用いて様々な進化をシュミレートすることで、人間についての理解・考察が進むかもしれません。
可能かはわかりませんが、そのうち人間だけが持つという「社会性」や「協調性」といった性質や、「宗教観」や「倫理観」といった精神的な構造も解明できるかもしれません。何といっても現実世界では何世紀という時間が必要な「進化」も、仮想世界の中では高速に繰り返すことができるのが面白いですね。
私たちの持つ生命感ばかりか社会や文化の要素も大きく変わるかもしれないですね。
コメント
カオスとフラクタル、CELL、などといったキーワードがこれから重要になってくると思います。※現在は2020年です。