今回はSIGNATEで「パナソニック株式会社 間取り図解析アルゴリズム作成」という面白いコンペティションが開催されていたので、このコンペティションのテーマである「 不動産間取り図の自動認識 」について文献調査を行いました。
なお、本記事は文献調査を深めるにつれて適宜更新していく予定です。
はじめに
不動産間取り図とは、不動産物件においてその間取りを表現した図であり、部屋の形状・大きさを表現するための仕切りや、ドアや窓の位置を記号で現します。
不動産間取り図の記載方法に一定のルールはあるものの、作成する人や会社ごとにその特徴は異なるため複数の図面間の記載揺れが生じております。そのためヒトであれば無意識のうちに図面の解釈を補完し、異なる図面ごとの比較が可能です。しかし、この判別をプログラムで行おうとする場合には、厳密なルールによる分類では表記揺れの問題により非常に困難です。
上記の課題を解決すべく注目されているのがDeepLearningを用いた「不動産間取り図の自動認識」です。
文献調査の方法
文献調査は無料の文献調査ツールである「Google Scholar」を用いて以下の条件で調べました。近年の情報を得たかったので検索期間は直近5年間と狭めております。
- 調査サイト:Google Scholar
- 検索期間:直近5年間 (2017 ~ 2021)
- 検索言語:日本語・英語
- 検索条件:特許・引用部分を含めない
- 検索キーワード(件数):不動産間取り図 自動認識 (146件)、間取り図 自動認識(123件)、floor plan recognition(28,200件)、floor plan automate(10,400件)
上記の検索の結果で表示された上位10文献について調査を行った。なお、検索結果の中でも論文をpdfとしてダウンロードできる文献は限られているため、最終的に得られたのは6件の文献でした。
不動産間取り図の自動認識 文献一覧
- AI・IoT を用いた不動産物件の 「魅力」情報処理 (Attractiveness Computing in Real-Estate Tech), 東京大学, 人工知能 (雑誌), 2017
- 深層学習を用いた不動産間取り図のグラフ化と物件検索への応用 (Conversion of Floor Plan Images to Graph Structures using Deep Learning and Application to Retrieval), 東京大学, 人工知能学会研究会資料, 2019
- Extraction of Structural and Semantic Data from 2D Floor Plans for Interactive and Immersive VR Real Estate Exploration, Institute of Visual Computing and Human-Centered Technology, Australia, journal : MDPI, 2018
- 間取り図に基づく類似性抽出, 九州大学 システム情報科学府, DEIM Forum 2020, 2020
- 不動産間取り図画像の特徴量による物件類似性の導出 (Derivation of Room Similarity from Floor Plan Image Features), 九州大学 システム情報科学府,人工知能学会研究会資料, 2019
- Deep Floor Plan Recognition Using a Multi-Task Network with Room-Boundary-Guided Attention, The Chinese University of Hong Kong, IEEE/Computer Vision Foundation, 2019
AI・IoT を用いた不動産物件の 「魅力」情報処理
本文献は、不動産物件でのAI/IoTの活用事例やアイデアを紹介するような文献で本業界についての背景知識がない人が最初に読むのに最適な文献です。
本文献の中では「不動産間取り図の自動認識」にのみフォーカスされた物ではなく、家賃の回帰分析、類似間取り検索の研究、IoT センサを用いた物件の住み心地定量化などさまざまな不動産情報処理についての研究内容を紹介しています。
不動産間取り図の自動認識とはずれますが、面白い試みなのでここでいくつか紹介します。
IoT センサによる物件の住み心地定量化
皆さんは住まいを決めるに当たって重要視する項目はどのような物でしょうか?人によって多少差はあれど、以下の項目が心地よい暮らしのために必要ではないかと考えます。
● 日当たりはどの程度か
● 部屋の明るさはどうか
● 最上階や西側の部屋,断熱材の有無,築年数などの条件による,他の物件との温度差
● 夜間や土・日曜日の人通りや騒音はどの程度か
● 上下左右の生活音がどの程度響いてくるのか
● 物件特有のにおい(水回り,壁紙のにおいなど)がしないか
これらの情報は一般的な不動産会社の賃貸情報の中には定量的に含まれません。定性的な表現として「窓が大きく日当たりよし」「鉄筋コンクリートのため防音性よし」などの記述はあるかもしれませんが複数の物件間で比較することはできません。
それを定量的かつリアルタイムに計測するために、安価な IoT デバイスを開発し,それを不動産物件に設置して空間的・時間的に密なセンシングを行い,かつそれをリアルタイム・長期的 にクラウド上に蓄積したうえで分析・可視化することのできる技術を研究しています。
直感的な間取り検索
本題の間取り図についての紹介です。間取り検索のためには、検索の際に参照できる定量的な数値が必要です。それは、各広間の広さや、リビング・キッチンの位置関係などです。これを実現するためには、部屋の構造をどのようにDeep Learningでモデル化できるかが重要となります。
筆者らは、「類似検索」および「間取りの自動認識」を紹介しております。
「類似検索」においては間取りタイプ(2DK,3LDK など)と特定の部屋の有無(和室,洋室,独立バスなど)の 2 種類のラベルを与え,マルチタスク学習を行うことで物体認識用に設計された単純な深層学習器より精度良く検索することが可能となることを報告しております。
また、「間取りの自動認識」においては、大量の正解データをクラウドソーシングにて作成してもらい、それをもとに学習することで、精度の高い部屋のセマンティックセグメンテーション用のinputとしていると報告しております。
これから部屋の結線情報を抽出し、グラフ化することで類似物件の検索は数学的な類似グラフ検索の問題に変換できるため定量的な間取り図の検索を行うことができるのです。
最後に
今回はSIGNATEで開催されている「パナソニック株式会社 間取り図解析アルゴリズム作成」という面白いコンペティションのテーマである「不動産間取り図の自動認識」について文献調査を行いました。このテーマができれば図面を用いて設計するような様々な業界に応用が効きそうですのでこれからも調べていきたいと思います。
なお、本記事は文献調査を深めるにつれて適宜更新していく予定です。
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